概要

研究交流課題名

東アジア地域におけるウイルス性肝疾患撲滅に寄与する研究拠点形成

研究交流目標

全期間を通じた研究交流目標

B型肝炎ウイルス(以下 HBV)・C型肝炎ウイルス(以下 HCV)などの肝炎ウイルス感染により、肝臓は慢性肝炎、肝硬変へと変化し、肝癌が高率に発生する。近年の抗ウイルス療法の劇的な進歩により、HBV・HCVのウイルス学的なコントロールが可能になりつつある。しかしながら肝炎ウイルス感染率の高い東アジアを含めた世界での肝炎ウイルス感染による肝疾患撲滅のためには、①効率的な肝炎ウイルス感染者診療システムの構築:1)HBV・HCV感染患者の効率的な発見と治療導入システムの構築、②抗ウイルス療法に伴う諸問題の解決:2)抗ウイルス剤耐性ウイルス出現機序の解明とその対策の確立、3)HBV完全排除を目指した新規抗ウイルス薬の開発、4)免疫不全ウイルス(以下 HIV)やD型肝炎ウイルス(以下 HDV)共感染例への対策の確立、③肝炎ウイルスによる肝癌に関する諸問題の解決:5)肝炎ウイルスによる肝発癌機序の解明、6)HCV駆除後肝癌診断マーカーの確立が急務である。金沢大学は拠点機関として平成26~28年度、HBV関連肝疾患撲滅を目指し、JSPS研究拠点形成事業(B.アジア・アフリカ学術基盤形成型)を実施し、中国・ベトナム・モンゴルの研究機関、世界保健機構(以下WHO)と共に「東アジア肝炎ネットワーク」を構築し、共同研究・若手研究者の育成を行った。その結果、肝炎ウイルス関連肝疾患撲滅には、次世代シークエンサー法やマイクロアレイ法を用いた高いレベルでのヒト・ウイルスの網羅的遺伝子解析の必要性を明らかにした実績がある。また2017年に本学は東アジア地域におけるウイルス性肝疾患撲滅のためWHOのウイルス性肝炎・肝癌対策を推進するcollaborating centerの指定を受けた。本申請課題では、先行実施課題で構築した東アジア肝炎ネットワークを利用して、対象疾患をHBVからHCVにも拡大し、肝炎・肝癌研究に関して一段高いレベルでの解析法を利用して上記課題を解決する。また各国若手研究者を本学へ積極的に受け入れることで、各種解析技術の習得や国際交流をはかり各国の肝炎・肝癌の基礎・臨床研究をリードする若手研究者の育成を図る。HCVも含めた全てのウイルス性肝疾患を標的にしたプラットフォームへとステップアップし、ウイルス性肝疾患に関する病態解明から治療法までを体系的に研究教育する拠点形成を目指すものである。

平成30年度研究交流目標

<研究協力体制の構築>
平成30年12月にベトナムのハイフォンにおいて第4回国際アジア肝炎シンポジウムを開催し、その際各国参加機関のコーディネーター、医師、研究者、WHO西太平洋支部の肝炎担当官が参加する。(第1回~第3回の国際アジア肝炎シンポジウムは平成26~28年度に、前回採択事業で毎年開催した。)シンポジウムの期間中運営協議会を開催し、本事業の総括、今後の国際共同研究計画の立案を行う。またモンゴル及びベトナムからのHBV単独感染、及びHBV・HDV共感染患者の肝組織(非癌部・癌部)組織や同組織由来核酸(DNA、RNA)の金沢大学への送付に向けて、1)金沢大学における倫理委員会の承認、2)相手国研究機関倫理委員会における承認、3)相手国政府の承認を得る。これらの承認を得ることで、モンゴル及びベトナムからの上記の患者由来検体の金沢大学への送付体制を確立する。

<学術的観点>
特に、以下の2研究を重点的に行う予定である。

  1. HBV・HDV共感染による肝発癌機序の解明:HBV感染により、正常肝は慢性肝炎から肝硬変へと変化し、さらに肝癌が発症する。一方HDVは、一本鎖のRNAウイルスであるが、HBVの存在下でないと感染が不可能な不完全ウイルスである。そのため肝臓へのHDVの単独感染は不可能であり、HBVとHDVとは必ず共感染する必要がある。臨床的にHBVとHDVの共感染患者は、HBV単独感染患者と比べて、肝線維化の進展が早期であり、肝癌発生率が高く、さらに肝癌の悪性度が高い事が報告されている。HDVの感染が肝線維化、肝発癌を促進していることが考えられるが、その分子生物学的機序は不明である。モンゴルではHBV感染患者の約70%、ベトナムではHBV感染患者の約10%がHDVに共感染している。本研究においては、HDV感染率が極めて高いモンゴルとベトナムにおいて、HBV感染を背景にした肝硬変・肝癌患者とHBVとHDV共感染を背景にした肝硬変・肝癌患者に関して、肝組織(非癌部、癌部)の核酸(DNA、RNA)を次世代シークエンサーによる網羅的遺伝子発現解析及び遺伝子塩基配列解析を行う。これらの解析を通して、HDV共感染による肝線維化・肝癌促進機序の分子生物学的機序の解明を行う。モンゴル、ベトナムでは患者からの検体収集を行い、検体を金沢大学へ送付して、金沢大学において次世代シークエンサーを用いた解析を実施する。平成30年度は、モンゴルとベトナムからの患者検体の収集と日本への送付体制の確立を目指す。
  2. HBV完全排除を目指した新規抗ウイルス療法の開発:HBVに対する抗ウイルス療法の主流は、HBVのDNA産生を阻害する核酸アナログ製剤である。核酸アナログ製剤により、ウイルス量は減少するが、核内にはcovalently closed circular DNA (以下cccDNA)が残存するため、核酸アナログ製剤を長期的に服用する必要がある。核酸アナログ製剤の長期服用により薬剤耐性ウイルスの出現や製剤によっては骨塩量の低下や腎障害などの副作用が懸念される。そのため、HBVを完全排除する新規治療法の開発が急務である。日本側拠点機関金沢大学のコーディネーター金子らは、これまでの解析から、4つの遺伝子(A,B,C,D)がHBVの複製に極めて重要な役割を果たしていることを明らかにした。しかしながらそれぞれの遺伝子が、どのようにHBV複製を制御しているかは不明である。本研究ではこれらの4つの遺伝子の中で、遺伝子Dに着目し、遺伝子DによるHBV複製機序の機構の解明、さらには遺伝子Dを標的として新規抗ウイルス療法の開発を行う。平成30年度は、この目的を達成するため、HBVが感染している培養細胞において、遺伝子Dの過剰発現系、発現抑制系の確立し、そのHBV複製に与える影響を明らかにすることを目指す。
  3. その他:核酸アナログ製剤耐性HBVの出現頻度、HCV駆除後の肝発癌頻度に関して各国の現状を調査し、12月開催予定の第4回国際アジア肝炎シンポジウムで発表し、情報共有を図る。

<若手研究者育成>
日本側拠点機関である金沢大学にて若手研究者の育成を目指した若手医師・研究者セミナー、第4回肝疾患・分子生物学セミナーを開催する(第1回~第3回肝疾患・分子生物学セミナーは平成26~28年度に、前回採択事業で毎年開催した)。参加対象は各国の若手研究者はもちろんのこと、研究経験の少ない若手医師も含む。一般的な分子生物学的手法、HBV・HCVのウイルス学、疫学さらにHBV・HCV関連肝疾患の診断、治療法と基礎から臨床までの幅広い分野の理解を深めるために、講義を中心に行う。また病院の見学を通して、B型・C型慢性肝炎、肝硬変、肝癌の診断、治療などの臨床肝臓病学に関して理解を深める。さらに、金沢大学の有する先進的な解析機器の見学および実際に基礎実験を行うことで実験手法の習得を図る。滞在期間中、セミナー参加者同士で各国におけるB型・C型慢性肝疾患の臨床や基礎研究に関して意見交換を行い、交流を図る。

<その他(社会貢献や独自の目的等)>
12月開催予定の第4回国際アジア肝炎シンポジウムにはWHO西太平洋支部の肝炎担当官も参加することにより、同シンポジウム参加者に対してのWHOの発刊したHBV・HCV診療ガイドラインの周知を図る。さらに各国参加者には、帰国後各国での同ガイドラインの普及を依頼する。このことはWHOの発刊したHBV・HCV診療ガイドラインの東アジア地区における同ガイドラインの普及に寄与することが期待される。
さらに日本側拠点機関の研究協力者2-3名が、モンゴル郊外(以前より交流実績のあるアーカンガイ州を予定)に1週間滞在し、現地の医療スタッフに対して肝炎ウイルス感染の診断法、治療法のレクチャー、WHOの発刊したHBV・HCV診療ガイドラインの普及を行う。

研究交流計画

計画の概要

平成30年度の計画

実施体制

データなし

課題の重要性及び交流の必要性

若手研究者育成への貢献

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